歯学博士 石井純一ドクターの「新型剝離子物語」 >>

 

新型剥離子物語

– 固定観念からの開放 –

歯学博士 埼玉県立がんセンター勤務
石井純一

 

開発のいきさつ

下顎埋伏智歯の抜歯は口腔外科では通常よく遭遇するものです。口腔外科手術のなかでは基本中の基本と言ってよいほどの手術です。新人医局員が最初に覚える手術でもあります。

 

そんな若手の皆さんの指導をしていて気がついた事はとにかく早く歯冠分割をしようとすることでした。メスで切開して、骨膜の剥離もそこそこにタービンを持ちたがる、気持ちは分からないではないですが…。こちらとしては、骨をしっかり見てから切ってほしいんです。そのためには骨膜(歯肉)を確実に剥離しなくてはいけない。しかし、それはやらないんです。いや、できないのです。その理由は道具にあります。剥離子が使いにくいのです。そこで、臼歯部でもより使いやすいものを考えました。

 

 

旧型ではダメな理由

もともと直線状の剥離子は前歯部では使いやすく出来ていますが、臼歯部のような後方の歯肉では扱い難くなっています。

 

何故なら前歯部では歯肉辺縁に対して剥離子の先端が垂直に入れられるのに対して臼歯部では斜めに入ってしまうからです。当然、力が分散してしまい剥離しにくくなります。特に第二大臼歯の遠心部、舌側部では垂直にすることは不可能になります。そのため確実な剥離は無理です。これが初心者が骨膜の剥離もそこそこにタービンを持ちたがる理由です。

 

そのままタービンで智歯の歯冠分割を行って行き舌側の骨まで切ると口底粘膜まで巻き込み、
粘膜直下を走っている舌神経損傷の可能性があります(図1)

図1

不適切な左下智歯抜歯によると思われる智歯歯冠の一部が舌側の皮質骨を破って突出した症例のCT像。

 

 

有害事象を回避

それを回避するためには舌側の歯肉骨膜を十分に剥離して、骨と歯肉の間に金属ヘラを挿入することです。その結果舌側の骨を多少削っても神経の保護が可能になります。

 

舌神経を損傷する頻度は当然ながらそんなに多くはありませんが、一度傷つけてしまうと治療は非常に困難です。薬物療法や外科的に顕微鏡下の神経縫合を行っても完全には治癒することは難しいようです1)。なかには訴訟を起こされる症例もあり、多額の賠償金支払いを命じた判例があります2,3)

 

図2

新型剥離子で下顎第2大臼歯遠心歯肉を剝離するところ。

以上の問題を解決するには歯肉骨膜の正しい剥離が不可欠であることがお分かりいただけると思います。そのためには歯肉辺縁に対して常に垂直方向に力がかかる新型の剥離子が必要です(図2)

 

 

新型剝離子

今回(株)ナミキ・メディカルインストゥルメンツ社と共同開発した新型の剥離子は先端が回転し歯肉縁に対して垂直に力が加わります。
使用法は簡単で先端と反対側にあるボタンを押して角度を変えるだけです。先端は細いものと太いものの2種類が用意されています。
是非多くの先生方にご使用して頂きたいと存じますのでよろしくお願いします。

 

参考文献

1)根来健二、稲山雅治、等:下顎第三大臼歯抜歯時に生じた舌神経損傷に対して顕微鏡下神経縫合を行った3例.日口外誌54(2),2008.

2)特別企画 国民から安心・信頼される医療安全―無床歯科診療所の危機管理を充実させよう―. 日歯医学会誌30, 2011.

3)東京地方裁判所平成26年11月6日判決.判例タイムズ1424, 2016.

 

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